山ほどのブルーベリーですら

実家で、大量のブルーベリーをもらってきた。

埼玉にある実家の二階の、予備の冷凍庫がブルーベリーでいっぱいになっていた。一人暮らしの父が、信州に住む大学時代の友人宅へ遊びに行ったときのお土産である。

このままでは、父が仕事から帰って疲れているときに食べる冷凍の餃子やカレーが入らない。

使い捨てお弁当容器4つ分。

目にいいから、子供も食べるだろうから、いっぱい持って帰れ、と父がビニール袋にいれてくれた。

冷凍庫が空いてほっとしてくれたようで、こちらもほんの小さな親孝行ができてうれしい。

帰りの電車で、膝の上の冷凍ブルーベリーについて考えた。大量のブルーベリーはジャムにするのがいちばんだ。

家に戻り、家で一番大きなボールにあけた。

ブルーベリーはボールのふちを超えて、こんもりと山のようになり、不用意にボールにぶつかれば、何粒もあふれるほど。

台所の流しにそっとボールを置き、水をジャージャー流して、ほこりだけとれればいいやと洗った。丁寧に一粒ずつ洗うのはあきらめた。

トウモロコシをまるごとゆでるときに使う大きな鍋に、ボールのブルーベリーをあけた。何粒か、コンロにこぼれた。まだ凍っていて、コロンコロンと軽やかな音がした。

砂糖をまぶしてかき混ぜようとして、柄の長いスプーンを冷凍ブルーベリーの山に差し込んだ。量は多いし、凍って固いからスプーンがうごかない。とうてい混ざりそうもない。

どうにかなる、とわざと声に出し、火をつけた。

「鍋いっぱいのブルーベリー、ジャムになるんだろうか」で、頭がいっぱいだ。

このまま火にかけて、うまくいくんだろうか。砂糖もうまくまざっていないのに、嵩はへるのか。なべ底の部分が焦げて、食べられないかもしれない。

鍋からあふれる冷凍ブルーベリー

それでも弱火のまま、火が小さすぎて、途中で消えたのをまたつけて、つけたら強火になったのを慌てて弱火にしたりしながら、5分ほどたっただろうか。

鍋から湯気がでてきて、凍っていたブルーベリーが溶け出した。柄の長いスプーンを差し込むと、下のほうのブルーベリーが柔らかい。鍋底のほうはきっと煮えだしている。焦がしてなるまい。

このまま弱火で混ぜていれば、ジャムになりそうだとわかったとき、思った。

5分前の私に行ってあげたかったのは、

「そんなに不安にならなくてもいいよ」ということ。

「あたりまえにしていれば、ちゃんとジャムになるよ!」。

山ほどのブルーベリーですら、手の上の容器におさまるジャムになる。

ブルーベリーだけじゃない。

2か月後に始まる、マレーシアでの生活。

ほかにもいろいろ、不安なことはあるけれど、

未来の自分はきっと、

「そんなに心配することなかったでしょ」

と、私に声をかけるだろう。

おいしく煮えました。